前例のない水処理領域のAI・IoT技術に挑戦した理由 工場を支える仕事を変え、お客様に挑戦してもらう時間を。
2018年1月には、工場の生産性向上のためのサービスモデル構築を行うべく、中島工業、AIエンジニアリング、スカイディスクの3社で、企画・研究・開発・設計業務に関する基本合意書を締結。取り組みの第一弾として、大手食品メーカー工場へのAI・IoTを活用した浄水技術の向上などを進めています。本件を皮切りに、水源開発、浄水から排水までの一連の水処理分野において、食品工場の水処理におけるスマートファクトリー化に着手。AIエンジニアリング立ち上げから取り組んだ、普天間氏にお話を伺いました。
過去データの蓄積で、現場の仕事を楽にしたい
現場の仕事では、直接人に聞かないとわからない、紙資料を調べないとわからない情報が多くあります。そんな状況をなんとかしようと、AI・IoTに取り組む以前は、まず社内の仕組みのIT化に取り組んでいました。徐々に社内の仕事のやり方が変わってきましたが、お客様の現場でも私たちと同じ悩みを抱えていました。
中島工業が直接やりとりするお客様は、生産設備を支えるユーティリティ設備、水処理や空調などいわゆるインフラ部分を担当する方々です。工場を増築した設計図面や仕様書が残っておらず、設備やシステムも改修の度に複雑化し、トラブルが発生したら現場作業員の方々が走り回るしかないといった状況でした。さらに経験ある技術者が固定化されてしまって、技術継承するにも口伝にならざるを得ません。人材確保は年々難しくなっていますから、今のやり方をそのまま続けるのはとても無理です。お客様の工場でもデータを蓄積する仕組みを整えれば、過去のデータから設備故障を予測することができるのではないかと。そこで、AIやIoTの話が出てきました。
正直な話、私は最初AIに否定的でした。現場作業員も誰もAIのプロセスがわからずに、使いこなせるか懐疑的でした。ただ、やる前から判断しても仕方ないのでやってみようと。私は現場の負担を減らす方向性で、もう1人の推進者はAIの可能性というか、自社の仕事のやり方がこのままでいいのか?という危機感からAIに行き着きました。2017年の2月頃にスカイディスクを紹介され、その後、お客様の工場のスマート化を推進するために、AIエンジニアリングを立ち上げました。
大手食品メーカーの工場に、AI・IoT技術を導入
AIエンジニアリングは、AIとIoT技術でスマートファクトリー化を推進する会社です。取り組みの第一弾は、中島工業のお客様である、大手食品メーカーの水処理領域のスマート化でした。我々も初の試みなので、工場設備をデータ取得のフィールドとして使わせてもらいました。AI技術の部分でスカイディスクと協業しており、サンプル数をどう用意してAIモデルをどうつくるのかなど、実際のAI開発について相談しながら取り組みました。
実際に実証実験をしてみて、AIが万能ではないことや、元データが存在しないと何もできない、というIoTの重要性もよく分かりました。というのも、何年分も記録してる帳票があったのですが、データ化してAIモデルを作成してもまったく傾向が見えなかったのです。データがあるつもりでも使えないデータがほとんどで、データを取得する方法を揃えるところから取り組む必要がありました。
水処理領域でのAI・IoT、前例がないからこそやる
プロジェクトを開始した当時、AIというと大体の用途はレコメンド領域で、水処理領域にAIを使ってる事例はありませんでした。前例がなく、期間も金額も判断軸がありません。多くの会社ではここがハードルになるかと思います。それでもAIに挑戦したのは「やってみないとわからないだろう」、そこだけです。新しい物事を時期尚早だからやらないという判断がよい結果になることは、ほぼありません。早く失敗して改善して経験値を積む方がいいと考えています。
お客様に向けても社内に向けても未来図を見せ続けました。とはいえ、見たことのないことを信用しろというのは限界があるので、100%の機能じゃなくていいからプロダクトを出すことは意識しました。「ここが使いにくい」と、お客様からフィードバックをもらった方が、実際の現場に即したニーズが拾えるからです。
データ可視化による効果を実感、AIへの期待は長期的な目線で
現場で本当に困っていることは何なのかというと、情報交換や履歴を参照することがやはり重要で、IoTで蓄積されたデータが活きるわけです。現在までに、データ蓄積とその可視化による効果は実感しています。お客様の工場の稼働状況を遠隔であらかじめ把握した上で、トラブル発生時には適した工具を持って訪問できるようになりました。再現性のないトラブルについてログが残ることも重要です。データを蓄積したことで、利用率からすると設備能力に余力があることなど、工場全体の効率性についても色々と見えてきました。
全体的な効果を実感するのは、さらに少し先になるでしょう。ただ一過的なコスト削減より、じわじわと実感できる効果の方が大切だと思っています。稟議のために費用対効果を計算することも必要ですが、厳密に期待し過ぎてプロジェクトから撤退できなくなるだとか、やたら巨大なシステムが構築されるようなことは、お客様にもやって欲しくないなと思います。
現場の熟練ノウハウを価値に変換していく
我々の強みは現場における技術やノウハウです。元々自分たちが得意としている領域にフォーカスを当て、水処理のAI・IoT化に絞りました。実際に現場を持ってるシステム開発会社は、なかなかありません。どのデータを取得してどこに着目するべきか、よりロジカルに数値的な根拠を得たことで、技術ノウハウに厚みが出せたと思います。
水は変動要素が大きいので、実は難易度が高いのですが、本来AIが期待されるのは、変動要素が大きいところで予測など。AIモデルをつくるまでのハードルの高さはありますが、普及に向けて取り組んでいきたいと思います。
また水処理領域での知見を生かして、2019年7月には、工場ドクター「FORS(フォース)」を正式リリースしました。これは主にユーティリティ設備を対象とした可視化、自働化を行うクラウドシステムです。空調系を示す「Fuzin(風人)」、機械系の「Orizin(機人)」、電気系の「Raizin(雷人)」、そして水処理「Suizin(水人)」の頭文字から名付け、必要であればAI技術も付加しながら、工場のインフラ全体を支えていくツールです。
ユーティリティ設備、工場のインフラを支えている方々は、実は工場全体の仕組みをすみずみまで理解されています。お客様の仕事のやり方を変えて、より高度なことにチャレンジしてもらう時間をつくること。これこそが我々のやっていることだと考えています。
<2019年8月取材 文・スカイディスク 福間>
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