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  • 2019.04.18
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旭化成メディカルMT株式会社 プラノバ工場で導入した AIプロジェクトについて伺いました。

2017年10月に包括提携を結んだAJS株式会社(以下 AJS)と共に、旭化成グループ内へAIを導入してきた株式会社スカイディスク(以下 スカイディスク)。今回は、そのうちの一つ、旭化成メディカルMT株式会社(以下旭化成メディカルMT)プラノバ工場長である大野氏に、今回のAI導入プロジェクトの概要と結果、今後について聞いた。

《登場人物》  ※所属部署・役職はインタビュー当時のものです。
大野 勝則大野 勝則
旭化成メディカルMT株式会社 プラノバ生産本部 本部長
兼プラノバ工場 工場長

1990年に旭化成に入社。24年間、繊維事業にてベンベルグという素材の生産技術の開発に携わる。途中石川県にある染色などのテクニカルサービスのサポートに携わった後、2004年には製造課長に。2014年には、300名ほどが在籍する旭化成メディカルMTプラノバ工場長となる。

 

山本 卓也山本 卓也
旭化成株式会社 延岡支社 支社長付(特命担当部長)
1983年に旭化成に入社。人工透析器等の血液浄化系医療機器の技術開発・製造・品質保証・薬事・事業企画等の職を経て、2010年事業部長。2013年7月~2018年9月延岡支社次長兼企画管理部長として延岡・日向地区の多様な事業に関わる工場群の運営支援を担当。2018年10月より支社長付としてIoT活用支援の特命業務担当。

 

壱東 学壱東 学
AJS株式会社 理事 九州支店 支店長
兼 ICT基盤センター長

1982年に旭化成に入社。28年間、繊維事業に所属し、ベンベルグ工場、スパンボンド工場の工場長を経て、2011年から2年間延岡支社次長を経験。その後、研究・開発本部の基盤技術研究所所長に携わった後、2017年4月からAJS株式会社へ転身し、現職となる。

 

金田 一平

《ファシリテータ》 
金田 一平
株式会社スカイディスク 取締役COO
スカイディスクの事業開発を管掌。ヤフー株式会社 ビジネス開発部長としていくつもの新規サービス立ち上げに従事。その後独立し、上場企業やベンチャー企業の新規事業開発⽀援をしたのち弊社参画。

 

 

技術オリエンテッドで生まれた製品〝プラノバ〟

金田:まずは、〝プラノバ〟がどのような製品なのかを教えてください。

大野氏(以下大野):プラノバとは、バイオ医薬品からウイルスを取るためのフィルターのことです。主に製薬会社などに販売しています。 形状はストロー状で、直径300ミクロンほどの口からバイオ医薬品を流し入れ、壁面の20ナノメーターほどの穴からウイルスを取り去ります。
社内で「セルロースを使った膜を開発できないか」というところから話が始まり、大きさ的にタンパク質の分画(綺麗に分けること)にあうのではないか、ということまでは進んだものの、どのような用途で活用できるかを旭化成社内で検討している状況でした。
ちょうど1980年代後半頃、人間の血液から作られた血漿分画製剤の中に、ウイルスが残ったまま患者に投与されていた、いわゆる薬害エイズが問題になっていました。
そこで、薬の中からウイルスを除去する用途でこの膜を利用できないか?ということで製品化まで開発を行いました。1990年頃のことです。
当時は、フィルターでウイルスが取れるはずがない、というのが世の中の常識だったため、 「ウイルスをフィルターで除去する」ということ自体が最先端の取り組みでした。

プラノバの仕組み

山本氏(以下山本):顕微鏡の発達もあり、「我々の作った膜でウイルスが取れていること」が証明できるようになったことも、製品化を後押ししました。

金田:他の技術革新があったことで、ようやく認められたんですね。

大野:そうでもありませんでした。
製品化された当初、実は赤字続きだったこともあり辞めようという話も出ていました。しかし、同じような製品がなかったことからお客様から「辞めないで欲しい」という声も多く、継続することになりましたが、現在では世界シェア1位の商品になっています。
また、バイオ医薬品には「ウイルスの危険性がゼロではないので必ず除去しましょう」というレギュレーションがあります。 ウイルスを除去する方法は現在2つあり、1つ目は熱をかけたり界面活性剤を利用する方法。
ただ、バイオ医薬品は元々がタンパク質からできているので、熱などをかけるとタンパク質が壊れてしまいます。
そこで、2つ目の方法であるプラノバによるフィルトレーション(ろ過)を利用することで、熱に弱いバイオ医薬品でも、ウイルスを除去できるようになりました。  

なぜプラノバ工場にAIを導入したか?

金田:世界シェア1位の製品の製造工程に、私どものAIサービスをご活用いただき光栄です。
ちょうど我々が延岡の工場に最初に伺ったのが1年半前の2017年秋頃で、その後10か所以上の工場を回り、2018年1〜3月でAI導入のプロジェクトをスタートさせました。
まず最初のプロジェクトをプラノバ工場からスタートさせた背景を山本様から教えていただけますか。

山本:元々プラノバ工場は、どのような生産条件に対し、どのような製品ができ、その間をつなぐものとしてどのような因子があるかを、技術者たちはずっと探索していました。
ただ、生産条件はあまたあり、「経験ではわかっているけれど、各々の寄与率については少しあいまいな部分があり、日々頭を悩ませていた」という状態でした。
単に製造データがあるというだけでなく、技術者たちが製造条件と品質との因果関係に関心があった、というところが大きいです。
もう1点、スカイディスクのAIを活用するテーマとして、その他に故障予知、官能検査の2つがあがっていましたが、弊社のどの現場でも求められる汎用性のあるテーマとして選定しました。

金田:AIだとインプットとアウトプットが紐づいているデータを活用することが重要になってくるのですが、そういう意味でも生産条件というインプットに対して、結果どのような製品ができたかというアウトプットがデータとして揃っていて、かつその因果関係を紐解きたいという課題感も持っていたので、良いテーマ設定だったと思います。

収率やスピードをあげるのではなく、あくまで〝品質の安定性〟を目指す

金田:率直な意見を言うと、最初に工場を訪れた時も感じたのですが、世界シェアを誇る製品にも関わらず、小さいエリアで、古い設備を使われている印象を受けました。
これは製品化された90年の初めから同じ設備を使われているのでしょうか?

大野:プラノバは生産条件がシビアなところがあり、設備を変えただけでも品質が大きく変わってしまいます。
また、現場としても昔からのやり方を変えるのは抵抗があります。
ただ、「もっと効率的に、品質や性能のばらつきが出ない条件の作り込みや設定をしたい」という思いはありましたので、それらを具体化すべく方法を模索していました。
自社でも多変量解析などを実施しましたが、なかなか思い通りの方法を見い出せない状況でした。

金田:プラノバにおける品質の課題は、具体的にどういった部分にあったのでしょうか?

大野:プラノバは、ウイルスを除去するためのフィルターなので、穴の大きさが不均一で、ばらつきが大きいと製品として成り立ちません。逆にそこを担保できれば、お客様が安心して利用できるようになります。現在世界シェア1位を取れているのは、製品のばらつきが小さいことを評価いただいているからこそです。

金田:良い品質のものを製造し続けるには、熟練技術者による匠の技も必要、ということですか?

大野:その通りです。
ただ、現状を守るだけであればAIを導入しなくてもいいのですが、よりばらつきを抑えたいと思ったときに、人の手の解析ではなくAIに頼ったほうが良いと考えました。
開発の当初よりは、ばらつきはかなりシビアに管理できるようになり、製品の均一性も上がってきていますが、お客様が求める品質も上がっている。
使っていただいている製品の数が増えているので、比率ではなく、不良品が発生する件数自体を抑えたいです。

金田:品質のばらつきを抑えることと、収率をあげることの関連性はありますか?

大野:はい。ばらつきを抑えることで、結果として収率をあげることができます。ただ、お客様に喜んでいただける商品を提供することを一番に考えているので、より狭い生産条件の管理幅で高品質の製品を作り続けられるようになりたいと思っています。
品質を均一化していくことを目標にしています。

AI導入を進めてきて見えた課題

金田:ここからはPoC(※)プロジェクトについて大野様、壱東様に具体的にお伺いします。
実際にAI解析をした際にいただいたデータは、どのくらいのパラメータ(因子)でしたでしょうか。
(※PoC:Proof of Conceptの略。概念実証のこと。)

壱東氏(以下壱東):100弱ほどでお渡ししました。

大野:プラノバを製造するためには、設定条件が多くあります。
最初にコットンリンターという綿花から取れるプラノバの原料を使用しますが、ポリマーの長さやミネラルも含めた成分等の性能と濃度を把握する必要があります。
これで初めて原料液ができます。その後、糸を固めますが、最終的には、多数の因子が重なって、約1週間〜10日ほどで一つの製品ができています。

金田:いただいた100弱ほどのパラメータの中でも、制御可能なものと、数値としてのみ取得しているものとさまざまでした。その中でどれがばらつきに影響しているかを分析していきました。

大野:結果としては、まだまだデータ数が足りず、製品の品質のばらつきに影響しているパラメータのうち、より寄与率が高いものを明確に特定したかったのですが、そこまでには至りませんでした。
今後は、そのパラメータが特定できるよう、不足している情報を取得できるような設備投資をするつもりです。

金田:AI導入のプロジェクトを進めている中で、難しさを感じた部分はどこですか?

大野:2回ほどPoCを回してわかってきたことですが、「現場でこれが寄与している」と思っていた因子以外にまだまだ因子が隠れているな、ということです。
逆に、もっと厳密に制御する必要がある因子もある、というような新しい目の付け所にも気付くことができたことは良かった点です。

金田:それはどのようにして発見したのですか?

大野:既存の因子の寄与率を足しても100%にならなかったのです。
なので、成果の一つとして、既存因子を見直すことができ、新しい仮説を作ることができたことが挙げられます。

金田:プラノバの事業自体が好調な分野だと思うので、製造と同時に改善のためのデータを取っていくことは難しいと感じますが、いかがでしょう?

大野:製造を回しながら、検査工程に試験データを入れて、それを評価しなければならないのは悩みですね。
また、製造に時間がかかる製品なので、実際に結果の評価がわかるまでに1週間〜10日ほどかかってしまうことも挙げられます。

現場の匠の技を、一緒に創り上げたAI化によって武器に

金田:スモールスタートで取り組まれていたことが素晴らしいと思っています。
最初から驚くべき結果をAIに求めてしまうと失敗しやすいと感じています。 プラノバ工場の場合は、まずは今あるデータでチャレンジいただき、現場の方と、スカイディスクのAIエンジニアがディスカッションをしながら進められたことが良かったと感じています。
AIの世界で難しいと感じているのは、受発注の関係だけだと良いものが生まれない、ということです。
お互いの知見を出し合って、共創していくことが良い結果につながると感じています。

壱東:実際にプロジェクトを進めている中でも、工程から出てきたデータのどれを選択するか、どんな条件で出てきたものをAIに食わせるか、それを選ぶのが難しいと感じました。

金田:よく「ビックデータをとにかくAIに食わせれば結果がわかる」と言われますが、プロセスのデータでいうと、現場の知見を基に当たりを付けないと、良いAIはできません。

大野: 我々も最初は、「最適な条件を一発で見つけることができる」と思っていました。
実際に導入してみると、地道なステップバイステップが重要になってくる、と実感しています。

金田:AIプロジェクトについては、どれだけ早く取り組むかが重要になってくると思います。
データの取得は時間がかかりますので。
また、当たりを付けてデータを取っていくことが重要になってきます。

山本:一歩前進したと思います。

金田:複雑な工程だからこそ、その工程にAIを導入できると、さらに競争力を高めることができますし、データをしっかり取ることで資産になっていくと思います。
そうすることで、製造現場の匠の技を、AI化によってその会社独自の武器にしていけると思っています。

現場から、「ここはAIがやったほうがいいのでは」と言う声が出てきて欲しい

金田:最後に、今後のスカイディスクとのAIプロジェクトに期待することを教えてください。

大野:我々自身もAIを誤って解釈していたり、理解しきれていなかったりすることがあります。まずは、現場がAIを理解することが重要で、慣れれば有効活用できるようになると思っています。
どのように慣れていくか、が重要になってくるので、スカイディスクとのAIプロジェクトを通じて達成していきたいと思います。
最終的には、現場から、「ここはAIがやったほうがいいのでは」と言う声が出てきて欲しいと思っています。

金田:AIを使う勘所がわかるようなイメージですね。
現在は、AIに対して万能感があったり、逆に何の役にも立たない、と見切りを付けてしまう方もいたりします。正しい知識を身に付けていただけるように、サポートしていきたいと思います。
今後はこのプロジェクトに新たなメンバーをアサインする予定はありますか?

大野:若手メンバーをアサインしたいと思っています。また、今のメンバーも入れ替え、色々な視点を入れていきたいと思います。

金田:スカイディスクとしても、現場の知識を習得し、AIを共創させていただきたいと思っています。

山本:新しい設備を作り、工場を拡大していくにあたって、AIが利用される場所が増えてくると思います。その中で、「現在はまだ因子がはっきりしないけれど、しっかりとデータが取得できるセンサーを入れよう」ということになると思いますが、ある程度の時間が必要だと思います。
その期間を踏まえて、データを一緒に解析し、活用していけるように協業していきたいと思います。
一部では、既存データを外部に丸投げしてうまくいかない、というパターンが多く、「AIは全然役に立たない」というイメージがついてしまっていたこともあります。
そのためには、何をやりたいか、という目的意識を持っていることが重要だと思っています。
データはあるけれど人間の知恵だけではどうにもならない時に、どう前処理をすべきか、というところからディスカッションをしていきたいと思います。

2019年3月取材 文・スカイディスク 高井

会社情報

名称 /旭化成メディカル株式会社
代表取締役社長 /住吉 修吾
創業 /1974年7月24日
資本金 /30億円 旭化成株式会社 100%
従業員 /約2,040名(2019年3月末) 
ホームページ/https://www.asahi-kasei.co.jp/medical/

事業内容/
・医療機器の開発・製造・販売
・ダイアライザー(人工腎臓)及び関連商品の開発・製造・販売
・血液浄化(アフェレシス)商品の開発・製造・販売
・輸血用白血球除去フィルター(セパセル)の開発・製造・販売
・生物製剤精製工程用ウイルス除去フィルター(プラノバ)などの開発・製造・販売  
※旭化成メディカルMT株式会社の事業内容含む

 

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