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AIで鋳造・溶接品の「品質検査」自動化を実現する

鋳造・溶接とAIについて

国内製造業の中でも長きにわたり中核を担ってきた技術といえば、鋳造、溶接が挙げられます。しかし、いまだに業界には多くの課題が残されていることが指摘されています。たとえば、品質の安定性や、人材育成がその筆頭です。

鋳造・溶接業界における課題

鋳造業界においては、特に大きさが小~中物の大ロットに関しては担い手が少ないという構造的問題があります。一方、溶接業界においては、溶接技能者認定者数の推移を見る限り、現場の技術者数は横ばいのようです。 出荷数を見ると、溶接作業の需要にはやや波があることが見受けられます。景気の動向によっては、溶接の各工程における技術者の労働力の需要が拡大する可能性もあり、需要拡大に備えて職人技を継承する手段が必要かもしれません。

AI活用による品質向上の可能性

そうした中、昨今の研究報告によれば、鋳造や溶接などこれまでIT技術による変革が難しかった領域においても、AI技術による品質の安定化や省人化が見込める可能性が出てきたといいます。 ある調査レポートによれば、1日あたり5000万回以上の溶接を行う自動車メーカーは、AIによる変革の恩恵を特に受けるとされており、実際にAI導入に成功した自動車メーカーも実在するといいます。

とある自動車メーカーには、もともと以下のような要求がありました。

  • 溶接が失敗するリスクが高い条件がどのようなものを知りたかった。
  • 機体が溶接セルにある間に溶接をやり直したかった。

 

いずれの要求も、部品を廃棄・分解する上での無駄なコストを削減することが目的でした。この自動車メーカーは、AI技術企業と提携することで、溶接の品質の良し悪しをリアルタイムで検出できるようになったといいます。

筆者がより知見を深めるために海外の事例や研究論文を調べたところ、鋳造、溶接の業界におけるAIの活用に関して特に実用・検証が進んでいるのは、上述の例のような検査の工程でした。 この記事では、鋳造品、溶接品の検査の工程を自動化するためのAI技術企業や研究を紹介します。

海外の事業会社例

Wildfire

検査を効率化するためのAI技術としては、画像認識(コンピュータービジョン)と呼ばれる技術が有用です。海外では、画像認識に強い企業が、製造業における製品欠陥検出の強化に乗り出しています。 たとえば、米ニュージャージー州に拠点を置く企業Wildfireは、製造業を含む産業界向けAIソリューションを提供しており、画像認識技術を用いた欠陥検出も含まれています。

RSIP VISION

米カリフォルニア州にあるRSIP VISIONは、画像認識に特化したAI技術コンサルティング企業で、鉄鋼製品の亀裂の非接触検査などを取り扱っています。欠陥検出はこれまでAIを使わずにある程度行われてきましたが、誤検知を減らすためにAIアルゴリズムを工夫する必要があると主張しています。

sentin

また、ドイツで2019年に設立された製造業に特化したAI技術企業であるsentinは、画像認識技術を用いて、スクラッチ(引っかき傷)やクラック(ひび割れ)を検出する技術を持っています。この技術は汎用的ソフトウェアとしてパッケージ開発されているようです。

VISUS Industry ITとApplus + RTD

sentinがそのソフトウェアを開発する上で協力関係にあるのが、VISUS Industry ITとApplus + RTDの2社であり、VISUS Industry IT社はこのソフトウェアに関してより詳しく解説しています(ドイツ語)。

VISUS Industry IT社の公式ブログには次にように書かれています。

  • 「非破壊検査(NDT)は要求が厳しく、検査の専門家を見つけるのは困難です。溶接の検査に関するサービスはほとんどないのが現状です。」
  • 「我々の開発しているソフトウェアは、X線画像を国際的に認められた標準に基づいてデジタル化できます。」
  • 「最初のステップは、検査員の考え方をプログラムに落とし込む作業です。数十枚のX線画像を、検査員たちが入念に評価する必要があります。」

Falkonry

前章で紹介した、とある自動車メーカーを救ったAI企業の事例も紹介しましょう。米カリフォルニア州にあるFalkonryが提供するソフトウェアは、溶接の品質をリアルタイムで検出するだけでなく、新種の異常を発見すると、その異常をシステムにフィードバックしてアルゴリズムを改良することもできるようです。 最終的に、彼らの顧客であるその自動車メーカーの不良溶接の検出率は98%になり、再溶接の手間が5倍減少したといいます。手作業ではどう頑張っても実現できなかったことが、AI技術によって可能となったのです。

Landing AI

最後に、Google Brainの開発リーダーであるAndrew Ngによって設立されたLanding AIは、部品の検査にわずか0.5秒しかかからない上に、人間の目よりも正確なアルゴリズムを開発しました。 彼らの開発したソフトウェアの驚くべきアピールポイントとしては、従来の目視検査システムでは100万枚の画像のデータセットが必要だったのに対し、彼らのソフトウェアはたった5枚の画像のみで欠陥のパターンを認識することができる点が挙げられています。

鋳造品の検査AI技術紹介

多くの場合、手動の品質管理工程には時間がかかり、エラーが発生しやすくなります。鋳造品の品質管理にはX線画像が利用されていることもありますが、まだ手動の域を出ていません。 しかし、画像ベースであっても、データさえあればAIの活躍が見込めます。以下は米国の大学院の研究者らが発明した、欠陥検出のための画像認識AIに関する論文です。

「畳み込みニューラルネット ワークと 転送学習による欠陥検出とセグメン テーション」(参照論文:M. Ferguson, R. Ak, Y. Lee, and K. Law, “Detection and Segmentation of Manufacturing Defects with Convolutional Neural Networks and Transfer Learning”, Smart and Sustainable Manufacturing Systems 2, 137-164 (2018))

X線画像による鋳造品の欠陥の検出をAI技術で自動システム化するために、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と呼ばれる手法が試されました。画像を読み込むと、

  • 「欠陥検出」
  • 「その欠陥がどのような種類の欠陥かの分類」

を行うことができます。実際、この2つの作業は一方のみを行うよりも両方を行う方が、処理の精度が上がるそうです。具体的にこのようなAIを作る際は、

  • 2種類の画像データセット(欠陥あり・欠陥なし)から、機械学習モデルをトレーニングする
  • 金属鋳造X線画像のデータセットで微調整する

の順序で行います。すると、現場環境で使用するのに十分高速なAIが誕生します。

溶接品の検査AI技術紹介

溶接品の検査に有効と思われるAI技術が、世界中の研究機関でいくつか検証されています。ここでは例として2件をご紹介します。

視覚を用いた検査方法

「ステンレス鋼の溶接手順の自動視覚監視」 (参照論文:Marco Leo, Marco Del Coco, Pierluigi Carcagnì, Paolo Spagnoloa, Pier Luigi Mazzeo, CosimoDistante, Rafaele Zecca, “Automatic visual monitoring of welding procedure in stainless steel kegs”, Optics and Lasers in Engineering, 104, 220-231 (2018))

このシステムの特徴は、複数種類の欠陥が検出される点と、危険な環境においても動作する点です。

溶接手順中では、4つの問題が起こるリスクがあるといいます。

  • 底部の残留物
  • 溶接部の暗色
  • 過剰/不十分な溶け込み
  • 成長(オーバーグロース)

これらの問題に対して、信頼性と計算量コストの観点から、検査用のシステムを構築したようです。

聴覚を用いた品質検査

さらに、視覚に限らず、音響を用いた溶接品質検査の技術も検証されています。

「音響 を使用した溶接品質モニタリング」 (参照論文:A.Sumesh, K.Rameshkumar, K.Mohandas, R. Shyam Babu, “Use of Machine Learning Algorithms for Weld Quality Monitoring using Acoustic Signature”, Procedia Computer Science, 50, 316-322 (2015))

この研究では、溶接時に発生するアーク音を、電流、電圧、速度などの要因の組み合わせとして解析し、その組み合わせと溶接品質(良好または欠陥)を相関させる試みが行われました。欠陥の種類には「接合欠如」と「溶け落ち」の2つがあり、この2つの欠陥を持たない溶接が良好な溶接としてみなされました。

アーク音を生データとして振幅信号に変換し、その統計的特徴をデータマイニング(抽出)しました。最終的に、ランダムフォレストという手法で、分類の精度は88.69%となりました。

結果、溶接における発声音は溶接の状態と深く関連するため、品質監視に効果的であることが分かりました。さらに、溶接中に発生する不要なノイズを適切にフィルタリングすることにより、アルゴリズムのパフォーマンスを向上させるという伸び代もあるとのことです。

(図1)良好な溶接と、そのアーク音波形

(図2)接合欠如の溶接画像と、そのアーク音波形

(図3)溶け落ちの溶接画像と、そのアーク音波形

自動欠陥検出をやってみよう

これまでの章で、海外企業や研究者たちによる技術検証を紹介しました。続いて、この記事をお読みになっている方の現場で、実際に製品の検査にAIを使ってみるためのアイデアを1つ紹介させていただきます。

「Python(X-Ray)による溶接部の自動欠陥検出」 sentin, https://sentin.ai/en/archives/2168

上記は、2章(海外の事業会社例)で紹介したsentinという企業が公開しているプログラムです。わずか数行のPython(プログラミング言語)コードで溶接のX線画像を評価できます。 必要な作業は、Python3.7のインストール、Dockerのインストール、さらに紹介されているコードの実行です。この作業を実施するだけで、手始めに「どのような形で欠陥や欠落を検出できるか」を確認できます。

現場で使用する際には、パラメータを厳密に決定するのではなく、現場の状況に合わせて柔軟に調整していくことが勧められています。実際に現場で使えるものにするには、より多くの現場状況を加味したプログラムを練る必要があるかもしれません。時間を節約するのであれば、AI技術のプロフェッショナルに相談してみましょう。

まとめ

最後に、本記事の各章の要点をまとめます。

1. 鋳造・溶接とAIについて

以下を説明しました。

  • 鋳造や溶接は景気の動向に左右されるものの需要は続いています。
  • 品質の安定化と人材育成には課題が残されており、デジタル化による定量的な技術継承および自動化が求められます。
  • 海外事業事例や技術検証研究によれば、検査の工程における自動化技術が特に進歩しています。

2. 海外の事業会社例

鋳造・溶接検査の自動化を手がける海外の企業として以下の5社を紹介しました。

3.鋳造品の検査AI技術紹介

X線画像から、鋳造品の欠陥検出や欠陥種類の分類ができるAI技術実証研究を紹介しました。

4. 溶接品の検査AI技術紹介

視覚を用いた検査方法、聴覚を用いた検査方法の2通りの技術を紹介しました。

5. 自動欠陥検出をやってみよう

ドイツAI企業のsentinが公開している、溶接部の欠陥を検出するAIプログラム(実行コード付き)を紹介しました。製造現場にもAIを活用して、業務効率化ができる時代になったのは喜ばしいことですね。 以上で記事を終了します。最後までお読みいただきありがとうございました。

※この記事はAI論文紹介メディア「アイブン」様より、ご提供いただいています。