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機械学習を用いて、製品の返品量を予測する!

製品と返品について

2015年、米国の消費者は2610億ドル相当の商品を返品し、オンライン販売の返品率は30%を超えることがありました。これは一見、小売業の話に聞こえますが、実は製造業にも関係する課題です。

日本国内では、経済産業省が「返品削減の進め方手引書」を正式にリリースしているほど、返品が経済効率を妨げる要因として問題視されています。

返品による製造現場への影響

製造業の工場現場を考えてみると、返品がもたらす被害は小さくありません。 まずは原因究明、客先で製品が機能しなかった理由を考えます。製造過程で見過ごされていたトラブルが原因の場合は、ラインの見直しや機械のオーバーホールなど大事に至ります。 また、最も大切なのは、客先に足りなくなってしまった現品を穴埋めすることです。至急、追加の生産計画を現場に展開しなくてはなりません。 工場現場の生産管理は余裕を持ってスケジュールが作られているものですが、緊急の事態に追加生産が間に合うかどうかは返品量に依存します。最近では「働き方改革」が推進され、従業員の勤務時間の制限が大きいのもネックです。

返品によるその他の課題

一方、製品のクオリティーに依存しない、顧客都合の返品も存在します。そのようなケースでは、単純に企業側は在庫を抱えることになります。こちらの方が製造側によるコントロールが効かないため対策が取りづらい課題です。

統計的に考えてみると、返品は少なくとも”発生する”ものとして分析する必要があります。まず第一に取れる対策は、返品がどれほどのボリュームになるかを予測することです。そこで、統計的手法の最前線として、機械学習を用いた返品予測を深堀りしてみます。

返品予測に関する海外の事業会社例

返品の問題において小売業と製造業が一括りにされる理由は、顧客が製品を購入するルートやシステム構造が類似しているためです。このため、小売業と製造業には、共通の機械学習ソリューションを用いることになります。

Flipkart

インドのスタートアップFlipkartは、購入者のカート(購入するものをリストアップし、決済を行う前の状態)を評価するニューラルネットワークを開発しています。 彼らのシステムは、「顧客側」に、そのカートの内容ではどれほど返品するリスクがあるかを表示します。その上で、返品率を低くするために、顧客に与える報酬と罰則が決定されます。例えば、返品不可の購入をするならクーポンを提供する、などです。この企業の研究者による論文はインターネットに公開されています。

上の図は、彼らが開発している機械学習モデルの概念図です。購入者の過去の返品率や、カートの中身が購入者の需要に合わない商品であるリスクなどを加味し、パーソナライズされた返品の予測値が算出されます。

Skullcandy

イヤフォン等の電気機器メーカーである米企業のSkullcandyは、自社の製品の返品率を予測するのに機械学習を活用しています。この企業のすごいところは、機械学習のプロジェクトを内製的に行っているところです。

また、返品量に加えて「故障率」を予測することにも取り組んでいます。その際、故障と製造工場の相関関係も調べることで、原因の究明を行っています。

返品および故障は、企業の製品が顧客のもとに渡ったあとにも企業側の工数が発生します。Skullcandyのプロジェクトが順調に進み、返品率や故障率が低下すれば、収益率が大きく向上することでしょう。

製品の返品量を知るAI技術の研究

また、南カリフォルニア大学のHailong Cui氏らによる研究は、製品返品量予測の先端を走っています。彼らの研究のポイントとしては、製品ごとに蓄積された購買者行動のデータセットと消費者本人のデータを使用して、以下の情報を算出できる点にあります。

  • 製品タイプ
  • 期間レベル
  • 返品量

つまり、どんな製品がどれほどの期間を経てどの程度の量が返品されるのかを導き出すということです。第2章でお伝えしたスタートアップが開発しているアルゴリズムとの違いは、「量」に着目している点です。つまりロットで生産・販売を行う製造業や工場により適用されるモデルと言えます。

参照資料:HailongCui, SampathRajagopalan, Amy R.Ward, “Predicting product return volume using machine learning methods”, European Journal of Operational Research (2019) DOI

4.まとめ

この記事では、製造業における「返品」のリスク、および返品問題に対抗するための策を講じている企業や研究者の例を紹介しました。 機械学習を用いれば、以下のような具体策が取れることがわかります。

  • 顧客の購買履歴と製品の性質を合わせて、個別の顧客に「返品させない」ための報酬と罰則を設定する
  • 「返品率」「故障率」と、製品の製造元(工場)との相関関係を調べることで根本的原因を究明する
  • 「返品量」と製品タイプおよび返品までの期間を予測する

いかに良いものを作っても、届けた先とのマッチングが上手くいかなければ生産のしがいがありません。機械学習を使えば、現場が集中すべき課題に専念できる世界が訪れるかもしれません。

※この記事はAI論文紹介メディア「アイブン」様より、ご提供いただいています。