AIを活用した故障予知・異常検知の手法と注意点

IoTやAIの技術の進展により、大型機械の故障予知や異常検知への取り組みが進んでいます。この記事では、具体的にどのような手法で故障予知を行うのか、その際の注意点は何かを解説していきます。

異常検知とは

異常検知とは、計測値を機械学習させることにより異常な状態を検知するための手法です。例えば、通常とは異なる動作や音などは異常検知の対象となります。 異常検知は、機械学習を用いることで、さまざまな場面で応用されており、産業機械の稼働状況や画像による製品異常の検出などにも利用されています。また、異常の有無を検知するだけでなく、現在ではデータ分析を行うことによる故障予測も可能です。

IoTやAIを活用して異常検知するには前提が必要

異常検知にIoTやAIをなどの情報システムの導入を検討している企業、予知保全システムの構築を検討している企業は増加傾向にあります。 しかし、IoTやAIを導入するうえではデータの計測が欠かせません。予知保全システムでは、対象となる設備や機械にセンサーを取り付けることで、状態を把握するためのデータの計測を行います。その後、IoTを使ってデータを収集し、そのデータに関してAIなどで解析を行うことで、故障や不具合を事前に察知することが可能となるためです。

IoTやAIは、現場で計測したデータを有効活用する技術であるため、高精度な計測が求められます。計測したデータの精度が低いと、IoTやAIを導入したとしても期待通りの成果が生み出される可能性は低いでしょう。そのため、IoTやAIの活用を考えるのであれば、高精度なデータの計測が行えることが前提となります。

データが十分に無い場合の異常検知手法

工場機械の異常などは、頻繁に起きる可能性が低いため、過去のデータが十分にない場合もあります。このようにデータが不足している場合に用いられるのが「教師なし学習」です。 教師なし学習とは、AIが与えられたデータから規則性を発見し、学習を行っていく機械学習の手法です。教師なし学習で代表的な手法は、SVDD、PCA、RPCAの3つです。それぞれの手法に関して解説していきます。

SVDD

SVDDは1クラス分類を目的とする教師なしの機械学習法です。1クラス分類は、学習時に少数派クラスのサンプルがほとんど得られない場合に有効です。そのため、SVDDは、異常の実例があまりないデータでもうまく機能します。2つのデータの間のある種の類似度を表す関数であるカーネル関数を使用することにより、「通常」の領域、異常検知においては正常な状態の領域を柔軟にモデル化することが可能です。そのため、機器予後診断や健康管理、詐欺の識別などに用いられることもあります。

PCA

PCAは主成分分析と呼ばれるデータ解析手法の一つです。PCAでは、データの持つ情報をできる限り損なわず、データ全体の雰囲気を可視化することが可能です。PCAによる異常検知は、正常なデータの領域(通常状態)を規定して、それを逸脱するデータを異常と判定します。異常検知の他にも、パターン認識などさまざまな場面に適用できます。

RPCA

RPCAは堅牢な主成分分析と呼ばれるデータ解析手法の一つです。PCAの統計的基準を修正したものであり、他のデータと大きくかけ離れたデータに対しても適切に機能するのが特徴です。用途としては、異常検知・画像処理などに使用されています。

異常検知・故障予知を行うにあたっての注意点

異常検知・故障予知を行う場合、システムへの理解が必要です。IoTやAIを活用した異常検知・故障予知では、タイムラグを考慮した設計が必要となり、経年による変化も考慮しつつ、モデルの更新サイクルを定めていかなければなりません。 教師あり学習の場合、異常を検知できる確率が最初からわかっているため、異常かどうか判断しやすいという特徴があります。それに対して、教師なし学習の場合は、異常値を検出できるもののそれが異常かどうか判断するのに別の判断基準が必要です。そのため、類似度などの指標をもとに、しきい値を正しく設定し、異常を判断しなければいけません。

AIの機械学習に教師なし学習を用いる場合、正解の定義が定められていないため、手法ごとの特徴を理解したうえで、複数の手法で判断することによって良い結果を得ることが可能です。また、データ計測の質にも注意が必要です。工場内の機械や部品などに対して異常検知・故障予知を行う場合は、現場の状況が正確に分かるような高精度の計測が大切です。

AIを活用した故障の予知方法「稼働監視」

稼働監視は、製品のIoT化を行うことで稼働状況を可視化する方法です。製品のIoT化を行うことで、製品からデータ取得が容易になり、機器が動作しているかを把握できます。また、製品の制御情報を収集することでどういった状態で稼働しているのかも確認することができます。 稼働監視に必要な要素は、製品情報のセンシングを行い、通信機能を利用し、その情報を収集することです。こうした情報を分析しつつ、AI関連技術を活用することで、過去や現在の状況だけでなく、未来の状況を予測して予兆保全を行います。

機械や消耗品の経年劣化などは避けることができないため、企業としては予兆保全を実施したいと考えるでしょう。しかし、予兆保全は、故障予測を正確に行う必要があるため、稼働監視から予兆保全を行うのは簡単ではありません。故障に対して、どういったセンシングデータが正しい予兆を捉えているのかを把握する必要があり、重要な指標となるデータを得るためには時間がかかります。また、時間軸や粒度も考慮しなければいけません。

また、正確な予知を行うためには、故障と相関性のある指標を複数組み合わせる必要があるため、すぐに期待通りの成果が出るとは限りません。さらに、故障予知を進めるうえで、機械などの故障はそう頻繁に起きないため、故障データが集まりにくく、AIに有効な学習を実現することが難しくなっています。

そんな状況でも、自社製品の徹底的な試験を行っているメーカーでは、自社製品と故障との相関性があるポイントを把握している場合も少なくありません。そのため、予兆保全を実際に行っている企業があり、現在では予兆保全をサービスとして提供する会社も徐々に現れはじめています。稼働監視から予兆保全を行うことで、競争力を高めつつ、機械や部品などの突発的な故障を防ぐことが可能となるでしょう。

システムの異常をいち早く見つける「予兆検知」のメリットや事例とは

システムのちょっとした変化を見逃さずに、大きな問題になる前に検知し対策する「予兆検知」。この記事では市場規模から導入するメリットや事例を紹介します。

予兆検知とは

予兆検知とは、工場内などでの機器が故障する前に「いつもと違う」状態をAIによって検知するシステムを指します。例えば、あらゆる機器は壊れる前に異音やデータの異常などの予兆を発することが少なくありません。

しかし、人間ではその予兆を全て捉えられるとは限らず、場合によっては予兆を見過ごすこともあるでしょう。対して、AIを使用した予兆検知システムは、機器の故障による操業停止などの事態を未然に防ぐ確率を飛躍的に向上させます。

予兆検知ソリューションの市場規模

予兆検知ソリューションの市場規模は2017年50億円ほどだったものの、2019年には140億前後まで上昇しています。2年間で市場規模が2倍以上に増加している状態です。そのため、世界中の企業は、予兆に対して人手に頼るのではなくAIと連動する予兆検知ソリューションを使用する動きに移行しつつあります。 また、市場の成長率に目を向けて参入する企業が今後増加する可能性も非常に高いといえるでしょう。

予兆検知をAI・機械で行うメリットとは

機器によってサービスや製品を提供している場合、機器の故障は企業活動に大きな損害を与えます。また、予兆検知を人力で行うことはほぼ不可能です。例えば、人によって管理する場合では、コストを割いても技術・感覚の違いがあるため、故障を避けることは困難です。 しかし、AIであれば予兆検知を人手に頼らず、些細な変化も検知することが期待されます。人が管理できない時間帯が発生してもAIであれば管理することができるでしょう。

予兆検知システムの仕組み

予兆検知のシステムは、機器のデータを蓄積したうえでAIが機械学習を行いデータの詳細な分析を行います。例えば、24時間365日稼働し続ける機器があったとしてもAIであれば、わずかな異常を感知することが可能です。 また、こうした異常検知のシステムは独自のアルゴリズムをつくり、システムに対して学習を重ねていくため、使用すれば使用するほどその精度を高めることができます。そして、異常と判定された場合であっても、それがどの程度の異常なのかをAIが判断できるようになるため、人員に対する負荷を著しく軽減することも可能です。 予兆検知システムは、コストを削減したうえで人のスキルや感覚に頼らない環境を作ることをサポートします。

予兆検知システム導入の事例

予兆検知システムは、既に様々な場面で活用されています。具体的な事例をみていきましょう。

ネットワーク通信会社の事例

通信サービスやクラウドサービスを提供する会社にとってネットワークは事業の根幹と言っても過言ではありません。しかし、人による管理によってそれらのネットワークを構成するための機器を全て管理することは困難です。 しかし、予兆検知システムを導入することによって予兆をとらえ、未然に機器の故障などのトラブルを防ぐことができました。実際に、トラブルに対処するための人員についても他の業務にリソースを割けるようになるなど、企業としてコストや時間を大幅に削減できています。 そのため、コストや時間を削減するために、予兆検知システムを導入することは非常に有効だといえるでしょう。

官能検査・官能評価、工業製品の検査の基本や検査方法3選

官能検査は、工業製品や食品を人間の五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)などの五感を用いて判定する検査方法です。この記事では、官能検査の感覚のバラツキを無くすための検査方法や評価方法を解説します。

官能検査とは何か?

官能検査とは、検査の基本とも例えられる身近な検査方法です。人間の五感を利用して製品の品質を判定する検査であり、工業製品などの検査で用いられています。

主な官能検査方法の種類

官能検査を行う際には、調査する製品の性質などを考慮したうえで、検査方法の種類を選択しなければなりません。代表的な方法は、二点識別法、三点識別法、一対比較試験法です。それぞれの方法について解説します。

1.二点識別法

二点識別法は、客観的に差のある2種の試料を用意し、「硬さ」「柔軟さ」など、指定する特性について該当する試料を判断させる検査方法です。試料間の差異の確認、パネリストが試料間の差異を識別できるか判断するために用いられています。

2.三点識別法

三点識別法も2種の試料を比較する検査方法です。ただし、三点識別法の場合は、比較させる試料が3種となり、2種は同じ試料、1つは性質の異なる試料を用意し、どの試料が他の2種と異なる試料であるかを選択します。試料間の差異の確認、パネリストの識別能力を測るために使用されるのは二点識別法と同様です。 二点識別法よりも比較対象となる試料が増えることで、より集中して異なる試料を選択させることが可能となり、精度の高い調査を行うことができます。

3.一対比較試験法

複数の試料を比較する際に、それらの試料を対にして取り上げ、一対一比較を繰り返すことにより、それぞれの試料の順位付けを行う検査方法です。 回答者は試料について、一対一で比較すればよいため、1回ごとの評価の負担がかからず、評価の矛盾が起きにくいという特徴があります。例えば、類似度の高い試料同士でも、その違いを詳細に評価、分析できるため、製品開発時のコンセプト案などの選定にも利用することが可能です。

官能検査を行う際の留意点

官能検査は、人間の感覚に頼って検査を行うものであるため、留意すべき点があります。特に、個人ごとに評価基準に対する考え方・感覚が異なることから、体調・先入観などが評価結果に影響する場合が少なくありません。そのため、実際に役立てることのできる信頼性の高いデータを得るためには温度や湿度、照明・騒音などの環境を検査する試料に適した環境に整えることが必要です。

また、工業製品などを製造している場合には、限度見本を用意する必要があります。限度見本は、合格品の限度見本と不合格品の限度見本があり、官能検査などには必須です。実際に製造した製品と見本とを比較しつつ、合否の判断に迷った際の判断基準となるためです。

 

さらに、官能検査を行ううえで、目的を明確にすることも大切だといえるでしょう。評価する目的が明確でなければ、それに適した官能検査の手法を選択できず、官能検査を実施したとしても満足できる結果は得られません。 こうした留意点を把握していなければ、間違った結論が出されることもあるため、注意が必要です。

官能検査の評価方法(官能評価)とは

官能検査の評価方法として、評価シートを使用するケースが代表的です。評価シートはパネリストに試料についての情報を与えるものです。そのため、評価シートは官能評価において重要なポイントであり、評価シートの内容次第では、同様の内容の検査を実施しても、結果が大きく異なることもあります。

精度の高い評価シートを作成するためには、シートに記載する説明分や用語に十分な情報が含まれている必要があり、先入観を与えないようにすることも重要です。また、評価項目・評価用語の選定が必要となる他、試料そのものや、検査に適した環境の分析、検討も必要となります。
精度の高い評価シートを作成する過程を経ることで、適切な官能検査の方法の選定、適切なパネリストの選定が可能です。評価シートは、官能検査の評価を左右するものであるため、精度の高いデータを得るためにも作成時は丁寧な作成を心掛けましょう。

 

官能評価を行う人の種類

官能評価を行う人の種類は、分析型、嗜好型の2種類に分けられます。どのような違いがあるのかについて詳しく見ていきましょう。

1.分析型官能評価

試料の特性、試料の差を評価するための官能検査が分析型官能評価です。そのため、パネリストに高い識別能力が要求されるので、事前にテストや専門的な教育が必要な場合もあります。工程管理や品質管理などを評価し、人数は1~10人程度の少人数になるのが特徴です。 つまり、分析型官能評価では、少人数の識別能力の高いパネリストが客観的評価を行っています。

2.嗜好型官能評価

試料に対してパネルの好みの調査などを行うのが、嗜好型官能評価です。目的に合わせて、試料の対象消費者のパネルの選定が必要で、パネルの年齢、性別などの属性が評価結果に影響するかも考慮しなければいけません。 影響が出ない場合は、身近な集団(社員や学生)を利用することもできます。分析型とは異なり、識別能力などは考慮されず、パネルの数が多いほど、市場の状況を把握しやすくなります。 嗜好型では、識別能力などが要求されず、多人数の消費者が主観的な評価を行っています。

官能検査の評価項目

評価項目を選定する際に欠かせない点は、試料の特性を把握したうえで、適した評価項目を選定することです。例えば、それぞれの試料で形・色・大きさ、使用方法などが大きく異なってくるため、それに適した評価項目を設ける必要があります。製造業などであれば、メッキや塗装の光沢、表面の粗さなど品質特性を評価する項目が必要です。 また、分析型の官能評価、嗜好型の官能評価どちらを選択するかでも評価項目が違ってきます。分析型では、客観的な評価が行える項目を設定し、嗜好型の場合には好き嫌いなど主観的な意見が投影される項目を用いなければなりません。

官能検査における評価項目は、官能検査の方法や人の種類、試料の特性により、大きく異なります。それぞれの試料に適した項目を検討しながら選定を行いましょう。

機械学習を基にした異常検知の手法や実際の活用事例、メリットとは

異常検知とは、大多数のデータの中から期待されるパターンと違うもの、振る舞いが異なるデータを検知・識別するものです。そして、今回は異常検知の手法や活用事例を解説していきます。

異常検知とは

異常検知とは、データマイニングを行うなかで、機器などの通常稼働におけるデータから通常とは異なる動きなどを検知・識別するものです。人では認識しきれない微細な変化や機器が故障する前の挙動などをとらえることが可能となります。

異常検知を実施する場合、普段とは異なる挙動をしたデータは外れ値として記録されます。そのため、外れ値から異常な状態がどのようなデータを残すのか、収集・分析することが可能です。外れ値の検知は、異常検知の中では最もわかりやすい検出方法だといえます。

例えば、センサーで工程の様子をモニタリングし、異常が発生したらアラートを鳴らすなどの動きは異常検知の有効な使い方です。

異常検知の手法

機械学習はデータを収集・分析し、一定のパターンを見つけ出すために用いられます。そして、通常の稼働とは異なるデータを拾い上げるために異常検知を行います。また、異常検知の方法は1つではなく複数存在しており、データや統計を用いながら更に細かい分類に分けることが可能です。

統計を用いるホテリング理論

統計的な異常値を見つける場合、ホテリング理論を用います。ホテリング理論は、示されたデータの値を計算し、それが本当に異常値なのかを導き出すものです。しかし、外れ値がいくつも存在しているような場合、ホテリング理論ではそれが異常値かどうか判断することは厳しいといえます。

また、ホテリング理論では計算を行ううえで正規分布を設定します。しかし、正規分布の値が変化するような時系列に沿ったものである場合は異常値を判断することできません。

データを用いるk近傍法

k近傍法は時系列に対するデータに対して距離を定め、それが異常値なのかどうかを判断します。例えば、k近傍法を用いて外れ値を検知する場合には、

  • 時系列に基づいたデータセットからある範囲のデータを切り取る
  • 異常値までの距離を計算し、距離の近さによって異常値かどうか判断する

などの方法が主体です。

k近傍法を用いる場合には、どの距離にあるものが異常値であるのかを策定し、それに沿った判断を行います。そのため、どの部分からデータを取り出すのか、どの値からが異常なのかというポイントを学習するために異常値の調整が必要です。

加えて、k近傍法を用いる場合、時系列データを訓練データと剣使用データに分けて異常かどうか判断する方法もあります。ある期間を設定し、時系列データと訓練データの類似度を計算したうえでその平均数値を全て異常値と判断します。

異常検知をAIや機械で行うメリット

AIや機械を活用して異常検知を行うメリットは、故障などの判断の自動化にあります。 かつての異常検知は、人に頼っていたといえます。特に、人の目や長年の経験がないと分からないとされていた異常検知は製造業では非常に大きな課題だったといえるでしょう。

しかし、異常検知をAIや機械で行う場合、異常が訪れるタイミングを予測するなど人間では感じられない違いを画像やデータによって補完することが可能です。特に生産ラインなどの異常では、機器やシステムの故障によって商品の生産が不可能となることも少なくありません。

AIや機械によって異常検知を行うことで人員の削減や生産性の向上が期待できる点はメリットだといえるでしょう。そのうえで異常検知を自動化する場合には、目的に基づいてデータの収集・分析が必要です。 現状を把握したうえで、AIと機械の活用によってメリットを得るためにはある程度の準備が必要です。

異常検知を導入した事例

ここでは、機器の保守・運用に対して異常検知を導入した事例をみていきましょう。

事例1 設備に対する異常検知

ある事例では、電力を生み出す企業が設備に対して異常検知を行えるシステムを開発しました。 この自動システムは設備が故障する前に使用者に教え、トラブルを防ぐことによってコストを削減し、収益の上昇を図ります。また、扱われるシステムの開発だけでなく、センターによってデータを監視できる環境構築を行っています。

事例2 機器故障の検知

ある事例では、製造業を営む企業が機器の故障などによって稼働が止まるという事態に頭を悩ませていました。点検コストの増大、生産性の低下など多数の問題が悪循環を生んでいる状態でした。 これに対して、AIで異常検知の環境構築を行い、機器の故障に対して最低限のコストのみが発生するようになり、収益も向上しています。

事例3 官能検査におけるAI活用

ある事例では、人に頼った官能検査のサポートにAIを活用しました。官能検査は、人によるスキルや勘によって行われていることも多いのが実状です。加えて、人による判断では様々な要因によって正確な判断を出し続けることが不可能となることも。 そういった検査は、データの収集・分析によってAIいにアシストさせることが可能です。この企業では人に頼っていた官能検査をAIにアシストさせ、異常や故障の発生率を著しく下げることに成功しています。人による検査や判断のサポートは、AIの有効な活用だといえるでしょう。

機械から異音が発生する原因と異音検知する方法とは

機械から異音が発生した場合、殆どは工場のラインを止めるなどの対処が必要です。そのため、非常に損失が大きくなることも少なくありません。この記事では、異音が発生する原因と異音検知を機械学習で行う方法やメリットについて焦点をあてていきます。

異音が発生する仕組みとは

機械から異音が発生する原因の多くは、機械及び部品の不良や異常にあります。異音が発生する仕組みは、例えば、ギアが回転する機械などで回転に異常が起き、うまくかみ合うことができなくななると、異音が発生します。加えて、ギアの傷や異物混入も異音が起きる原因です。 そして、ファンや送風機などの回転体を持つ機器の場合は、ベアリング異常・ロータの接触などにより異音が発生することも多くあります。

このように、異音が発生している場合は、機械が正常な状態ではないケースが殆どです。そのため、異音を放置することで機械のさらなる故障を招く可能性があります。最悪の場合、機械が使用不可能になるため、注意が必要です。

異常音を自然検知することの難しさ

機械の異常音は、破裂音などの大きな音であれば、誰でも気付くでしょう。しかし、僅かな機械の異常音を自然に検知できるのはベテランの技術者に限られており、これまでの工場生産現場における機器の保全・点検はベテラン技術者の経験や勘が頼りでした。 しかし、今後はベテラン技術者に頼った業務遂行は難しくなることが予想できます。少子高齢化に伴う労働人口の減少や退職に伴い、ベテランの技術者が減少しているためです。経験のない技術者では異常音に気づかず、故障まで異常に気付かない場合も多いと予想できます。 正常な音と故障時の異常音を人間が聞き分けるには、長年の経験が必要となるため誰でも可能なことではないといえるでしょう。

稼働音から異音を検知する方法

現在は、異常音検知の分野でAIを使用したサービスが注目を集めています。従来のベテラン技術者に頼っていた異音検知方法とは大きく異なります。AIを利用した異音検知について解説します。

正常音と異音の違い

機械が正常に動いている時の音が正常音で、不具合などの原因により発生する正常ではない音が異音となります。 異音を聴感的な傾向で分類すると、基本的には2種類に分類されます。その音は、稼働音全体が大きくなる音(ギャー音)と周期的なノイズが混じる音(ガタ音)です。正常音と異音をマイクで録音した波形を比べてみると、ギャー音は全体のレベルが大きいものです。対して、ガタ音は、レベルは小さいものの、波形に関しては周期的に突起があるような状態になります。

しかし、正常音についても、一定の波形レベルを常に保っているわけではないため、このような波形だけを見て異音だと判別することは困難です。 そこで、AIを用いて正常音を正常な状態(通常状態)として学習します。例えば、入力された音と通常状態の音を比較して、異常値が低ければ正常音と判定、異常値が大きい場合は異常と判定されるため、異音と認識できるようになります。

正常稼働音のみを学習データとする「異音検知技術」

音を手掛かりに機器の異常を検知することが困難な背景にはいくつかの理由があり、異常音の収集が難しいこともその理由の1つです。 前例として、機械学習の技術が進歩しているため、機器の正常音と異常音を大量に収集し、判別結果の正解率を最大化するような判別ルールを学習する方法が考えられたこともありました。しかし、機器が故障する頻度が低く、故障の仕方や壊れ方もさまざまであるため、機械の異音を大量に収集することは困難です。そのため、この方法は現実的な方法ではありません。

また、異音検知には騒音への対応も必要です。製造工場などの環境下では、異常を検知したい機械の他にも多くの機械が稼働しており、その稼働音が騒音と判断され、検知したい音の収集を妨害します。周りの機械の稼働音と比べ、検知したい機械の稼働音が大きくない場合もあるため、異音を検知するためには騒音への対処が必要です。

このような問題を解決するために開発された技術として、正常稼働音のみを学習データとして検知する「異音検知技術」が挙げられます。 異音検知技術は、収集が困難な異音状態の音を集めず、正常な稼働状態の音だけを使用します。具体的には、正常な稼働音のみを収集してAIが学習を行い、対象となる機器特有の正常音と判定したい音の音響特微量を比較したうえで、正常音からの乖離がどの程度なのか計算するという方法です。正常音からの乖離がそれほどない場合は正常、乖離が一定の範囲を超えると異音、と判定することが可能となります。この技術であれば、音響特微量が正常音と差異があるのか判別するだけであるため、異音の種類に関係なく判別できます。

また、騒音に関しては、現在ノイズキャンセルやフィルタリングにより、環境音や雑音を除去することが可能です。異音検知技術を用いた場合、設備機器周辺にマイクを設置すれば、異音を検知することができるため、検知方法も難しくはないといえるでしょう。現在、AIを用いた異音検知技術は進歩しており、導入を検討する企業は増加傾向にあります。

異音検知を機械が行うことのメリット

異音検知を機械が行うメリットは多数あります。従来であれば、異音検知はベテラン技術者の経験や勘に頼って行われてきたものの、少子高齢化や退職などによって、そういった人材は減少傾向です。また、人が異音検知を行う場合、判断基準が異なる場合があるだけでなく、診断漏れが起こる可能性があります。 しかし、AIであれば、機械の稼働音を定量化して判断するため、判定基準が一定となり、精度の高い異音検知が可能です。また、AIのメリットとして異音検査の自動化、常時監視が可能となるため、診断漏れがなく、検知される異音は、画像や音声データなどともに管理者の元にメールで通知されます。結果として、機械の現状把握が容易になるため、重大な故障が起きる前に修理を行うことが可能となり、急に生産ラインがストップするような事態が発生しにくくなるというメリットにつながります。

機械音から潤滑状態の把握もできるため、機械の適正なメンテナンス時期を知ることができるだけでなく、メンテンナスの間隔を伸ばすことも可能でしょう。そのため、機械・プラントメーカーなどでAIによる異音検知の導入が進んでいます。現状では、技術者などが耳で異音検知を行っているケースもあるものの、これらメリットが多いことため、異音検知をAIで行う企業はこれから増えていくでしょう。

生産計画DXだけじゃない、ミツワケミカルが考えるDXとは?

株式会社ミツワケミカルは、昨年に60周年を迎えたプラスチック成形の企業です。自動車関連事業を中心に展開しており、生産拠点としてタイ・フィリピンの2工場を構えます。 海外拠点を前提に業界に先駆けてクラウド利用を進められ、現在では業務の大半をSaaSで運用しています。そんな中、2023年6月より生産計画業務に最適ワークスを導入しました。 生産計画DXをはじめとしたDXを積極的に推進する理由を、ミツワケミカル代表取締役社長の神保様にお話を伺いました。 (最適ワークス導入の背景については、こちらをご覧ください)

株式会社ミツワケミカルについて

1962年、神奈川県にプラスチックの一貫生産メーカーとして創立して以来、プラスチックの多様化・高度化に併せ、精密金型製作から二次加工 (塗装・印刷・レーザーマーカー・組立等) まで一貫して開発・生産可能なメーカーとして発展。 1994年7月には、フィリピンマニラ郊外に一貫生産工場を現地法人として設立し、2007年4月にはタイバンコク郊外にも生産拠点を設置。グローバル化を積極的に推進してきた。

DXの着手は海外での事業展開に必須だった

2010年以降、日本での需要が減ってからも、海外に拠点のある日系企業に販売していくために、日本はマザー工場として維持していました。しかし、現地でスピーディーに開発~生産を行う目的や、輸送コストや人材確保の問題から、2018年に機械や倉庫を全て海外拠点に移設し、日本は営業拠点として運営することになりました。これにより、工場と取引先の物理的な距離が近づき、広い視点では業務効率の向上に繋がりました。しかし、工場の運営は非効率なままで、無駄な作業や設備稼働率の低さ、生産量のミスなどが目立ちました。これを受けて、グループ全体の業務を標準化し効率化することが必要だと思い、DXを推進してきました。

業界の中でも、私たちはDXへの動き出しが早かった方だと思います。クラウドシステムにこだわり、様々な業務のDXを進めてきました。組織を強くするという観点からは、海外に製造をシフトした際、人材交流をしてみたりして、よくある育成手法を試してみたこともあったのですが、あまり効果が出なかったという経験もありました。私たちのような規模の会社の場合、従業員が働く環境をデジタル化し、業務を標準化していく方がスタッフも早く仕事を学び、投資としても、教育としても効果的だと感じています。

Mitsuwa Chemical (Thailand) Co.,Ltd. (MCT) タイ工場
Mitsuwa Chemical Philippines, Inc. (MPI) フィリピン工場

設備も運用も規格を定め、業務を標準化していく

この様な背景から、業務標準化は徹底して行っています。例えば、成形機など製造機械も出来るだけ同じものを使っています。朝のラジオ体操から始まる日々のスケジュールもほぼ同じです。各国の文化や法律による微調整が必要なこともありますが、基本的なフレームワークは全て一緒です。こうすることで、拠点間で人材が移動しても、すぐに同じやり方で業務に取り組むことが出来ます。

システム面では、クラウドサービス活用によるDXを通して、標準化を10年以上前から推進しています。自社サーバーを管理するのも、そのためのIT人材を確保するのも大変ですし、積極的にクラウドサービスを取り入れてきました。フィリピンとタイの2拠点はシステム的に統合していて、全体で「Google Workspace」、プロジェクト管理ツール「Backlog」、名刺管理・営業DXサービス「Sansan」、人事管理システム「HRBrain」、クラウド管理クラウド「ジョーシス」、受発注・生産在庫管理「ATOMSQUBE」などを活用しています。拠点間で異なるツールを使えば、カレンダーやファイル共有も困難になりますから、非効率でコミュニケーションの壁が生まれてしまいます。

こういった業務標準化の成功例ですが、業務の進捗が一目でわかる開発管理システム(Backlog)はかなり役に立っています。開発部署の上長が業務の進捗を一目で把握できるので、朝礼時の業務確認の効率が格段に上がりました。逆に苦戦している点ですが、会計システム・給与システムはタイとフィリピンにおいて基準が異なるため、システムそのものの統合が難しく、また受発注システムからのデータ移行の困難や、国ごとの会計・商慣習にあわせた帳票フォーマットも苦労している、といった事例もあります。生産計画DXについては、法律や会計基準の差異による影響を受けにくい領域なので、その心配はないですね。

現場から「我々の工場はこうやりたい」という提案は、もちろんあります。無理にグローバルで一律化するのが、必ずしも良いわけではないでしょう。ローカルに合わせた細部の調整はありますが、ただ基盤は一貫性を保つことが大事です。なぜなら、ローカルで構築してしまうとプロセスも成果もバラバラになり、良し悪しの比較や検証が難しくなるからです。同じ基準を持つことで、各工場やチームのどのやり方が最適か、客観的に評価しやすくなります。
業務標準化は、単に現場レベルの効率性を向上させるだけでなく、経営判断のしやすさにつながります。

SaaS活用で業務フローも改善。成果を出す手段としてのDX

システム導入時には、基本個別カスタマイズは不要と考えてます。そもそもGoogleなどはカスタマイズ不可能です。システム会社には、いっそ「カスタマイズできない」と明言してほしいくらいです(笑)もちろん、欲しい機能がすべて実装されるわけではありませんが、SaaSの最大の利点は、世の中のベストプラクティスを活用できることです。また、もし個別カスタマイズを優先してスクラッチでシステム投資をしていくと、SaaSの恩恵であるアップデートされ常に最新機能を使える利点を失います。もしSaaS製品を使いこなせない、適応できない理由があるとすれば、それは私たちに問題がある。既存のやり方に固執せず、業界標準やベストプラクティスに合わせるべきだと考えています。

SaaSサービスはまずは使ってみて、その良さを体感することが大切です。ただ現実問題として、新しいツールを導入するには既存の業務を変更することが必要で、これは担当者にとっては大きな負担です。また、慣れるまでに時間がかかるのも理解しています。これらは避けられない難しさでもあるので、頑張ってやりきるしかない部分です。トライアンドエラーするなら早い方がいいので、私自身は「やるなら、すぐやろうよ」とはっぱをかけています。使ってみれば、何を改善すべきかも見えてきますし、新しいツールの価値も見えてきます。

結局のところ、我々がやりたいのは効率的に業務をこなすことです。DXはその手段であり、効率化を実現するためには、必要に応じて業務フローを変えるべき、そのように考えています。一度SaaSサービスの導入に成功すると業務の習慣が変わりますね。最適ワークスを活用して進める生産計画DXにも、このような変化が見られることを期待しています。

ミツワケミカル 日本本社
会社情報 株式会社ミツワケミカル

Webサイト
本社所在地:神奈川県平塚市中堂18-8
代表者:代表取締役社長 神保 全
設立:1962年12月27日
事業内容:日本・フィリピン・タイの3拠点にて自動車産業用・医療用プラスチック製品の製造・販売

ミツワケミカル